私の師匠が口を酸っぱくして伝えている事に「これから先は変形性股関節症と変形性膝関節症の時代に入る」というものがあります。
臨床の状況から見ると既に入っているかもしれません。
余り運動習慣のない生活をしている場合は高校生で既に股関節に可動制限がかかっており、大学生に至っては女性は半数以上は既に股関節の可動制限がかかっています。
現代社会は「股関節を使わない暮らし」を突き詰める形で発展していますので仕方がない事かもしれませんが、今の状態が続くとなると「変形性股関節障害」の進行した状態になって初めて慌てるパターンが頻繁に起こりそうで怖いです。
変形性股関節症を知ろう
最近は良くTVで取り上げられる事が増えてきた「変形性股関節症」ですが、一番わかりやすく説明をすると
- 股関節の骨が正常な位置に収まっていない
- 正常な位置に収まっていない股関節の骨が軟部組織を圧迫し変形させていく
- 最終的に骨は骨棘を形成して不自然な位置関係を「現時点ではベスト」と判断をする対応に。
- 本来の位置関係にない股関節は可動制限が掛かり、神経障害や筋肉の機能障害等も併発する事も
これが変形性股関節症です。
股関節が本来の状態から逸脱してしまい、様々な症状がそれにともなって起こる疾患です。
もっと簡潔に言うなら「股関節が変形して、それにともなって起こる症状全般を指す」疾患です。
股関節に起こる変形について
股関節に起こる変形は大まかに言うと3つあります。
変形1:関節の位置関係の変化
これは姿勢の歪みや特定の姿勢を維持していると少しずつ起こってくる変化です。
- 重たい荷物を扱う仕事
- ジャンプと着地が多い生活
こういった生活を日常的にしていると、徐々に股関節の位置関係は変わってきます。
現在の人間の股関節は未だ進化の過程にあり「4足歩行」時代の名残が多く残っており完全に「二足歩行用」になっている訳ではありません。
今正に適応しつつある成長中の関節構造なので、大切に扱ってあげないと壊れてしまいます。
ただし、股関節は非常に強固な作りの関節なのですぐに「痛み」という形で症状が出てくる訳ではありません。
必ず最初は「関節の可動制限」という形で静かに症状が始まるのです。
変形2:軟部組織の損傷・変形
股関節は非常に負担が集まりやすい部位なので乱暴に扱っていると壊れてしまいます。
特に太腿の骨がはまり込む骨盤の「凹」の部分(寛骨臼)は2足歩行前提というより4足歩行の時代の名残が残る深さになっています。
その構造上の脆さを補うために「関節唇」と呼ばれる結合組織が周囲を補強し、疑似的に関節の深さを強化しています。
股関節には関節唇以外にも多くの靭帯が股関節を覆っており、構造上の弱さを補強するとともに股関節にかかる大きな負担を全員野球でカバーする仕組みができています。
その軟部組織が負担に耐え切れずに傷が入ったり、大き過ぎる負担によって損傷したりするケースがあります。
関節唇の場合は骨のズレによって捲れてしまったり関節に入り込んでしまうケースも稀にあります。
変形3:骨棘形成(骨の変形)
変形性股関節症で良く診断されるのはこの骨棘形成です。
骨棘形成に関しては色々な説があるようですが、当院では「新しい環境に身体が適応した形」という認識をしています。
骨棘ができる部位には特徴があり
- 長期間、荷重が掛かっている
- 本来は荷重が掛からない場所
- しっかりした「受け皿」が存在していない
この条件がそろった時に、その直近の骨が徐々に変形し「新たな受け皿」として骨を新生するという流れです。
ちなみに、横から骨棘を見ると棘の様に見えますが、上から見ると受け皿の様な平面上になっているのが骨棘の特徴だそうです。
「骨棘」という名前からすると「トゲ」の様なイメージをしますがそれは違うとのこと。
「負担に耐える為に骨が広がっているのにどうして折れやすいトゲなんだ?」とずっと不思議に思っていた院長には目から鱗のお話でした。
変形性股関節症の症状
変形性股関節症の症状は主に3つです。
- 股関節の運動制限
- 体重が掛かった時に走る痛み
- 足を持ち上げた時に走る痛み
症状自体はこの三つに集約できますが、問題はこの症状によって及ぼされる生活の影響が大き過ぎる事です。
変形性股関節症によって影響を受ける生活
- 歩けない
- 足を引きずる様な歩き方になる(昔でいうびっこ)
- 階段を登れない(登るのが苦痛)
- 階段を降りれない(降りるのが苦痛)
- 重い物が持てない(買い物に行けない)
- 立つのが辛い(両足に重心を保てない)
- 足に力を入れると電気が足の付け根に走る(体重が乗る瞬間に症状が出る)
軽症から重症までの症状を掲載しましたが、体重が乗ると痛みが走るレベルになると生活の多くが制限を受けます。
変形性股関節症や変形性膝関節症を患って初めて「人間の生活動作は細かく重心移動がされているんだ」と気付いた人が多いのではないでしょうか。
変形性股関節症の厄介な所は「体重を掛けない限りは痛みは出ない」という事です。
椎間板ヘルニアと同じで何もしなければ元気で、動こうとすると痛みで邪魔される。この状況はかなり精神的に辛いです。
変形性股関節症は「可動制限」から始まる
変形性股関節症は殆ど全員が「症状が出て初めて意識する」疾患です。
これが変形性股関節症の発見が遅れる最大の原因となります。
変形性股関節症の始まりは「股関節の可動制限」です。つまりは「足が固くなる」事がはじめの一歩だと覚えておいてください。
- 「身体が固い」
- 「柔軟性が無い」
という認識で股関節の可動制限を放置している事が多い為、徐々に股関節障害が大きくなり「痛み」がある日出てくるケースが多いです。
変形性股関節症は10年20年単位で進んでいく。
変形性股関節症は1年2年の疾患ではありません。10年20年単位でゆっくり進行していく病気です。
正確には病気というより「環境に適応した」だけの話なので、ゆっくり進んでいくのは当然と言えるでしょう。
本来の姿勢、重心から外れた状態に適応しようとしているだけなのです。
基本的に筋骨格系の症状は「本来あるべき状態からかけ離れた状態が”日常”となる事」で起こるものだと考えてください。
ですので生活を改善する、身体をケアしてあげる習慣をつけるだけで予防が可能な疾患でもあるのです。
変形性股関節症は「骨棘」の形成などの物理的な変形が生まれる前なら自分自身での改善が可能です。
逆を言えば「骨棘」等の物理的な変形が生まれてしまうと自分だけではどうにもできなくなります。
歯と同じで股関節は大事にすれば最後の瞬間までしっかり働いてくれます。
でも、粗末にすれば簡単に壊れます。
そして、壊れたら元にはもう戻らない「使い切り」のものなのです。
このHPがどのくらい若い世代に届くかはわかりませんが、なるべく早い段階で身体の事を学び、身体を労わる、大切にする習慣をつけてもらえたらと思います。
今の時代はとにかく股関節を追い詰めるものが多過ぎる。