腹圧維持の為の重要なアウターマッスル:腹斜筋群
慢性腰痛に悩む患者様はまず例外なく「腹圧」が抜けています。お腹を締める力が低下しているのです。
その理由はお腹を取り囲む筋肉の機能低下なのですが、低下が著しいのは腹斜筋群です。腹斜筋とは外腹斜筋と内腹斜筋の二つからなる身体の捻りを受け持つ重要な腹筋群となります。
ここが見事に抜けてしまっている為に腹圧が腹腔に留まる事ができず、外へ吐き出されてしまうのが慢性腰痛の主な原因なのです。
腹筋=腹直筋のイメージが今なお根強い
腹筋という言葉を聞くと誰もが思い浮かべるのが「シックスパック」と呼ばれる割れた腹筋だと思います。
あれは腹筋群の1つに過ぎません。
腹圧を支える腹筋群は全部で4つありまして
- 腹直筋
- 外腹斜筋
- 内腹斜筋
- 腹横筋
からなります。
それぞれが固有の役割を果たしているのでどれが欠けても腹圧は成り立ちません。
ちなみに腹筋群以外にも脊柱起立筋や骨盤底筋なども腹圧には関わってくるのですが、こちらは抜ける事が非常に稀なので余り気にしなくて良いです。抜けている確率的には腹筋群の方が圧倒的です。
慢性腰痛を改善させる、再発予防を図る場合は必ず4つの腹筋群をバランス良く使ってあげましょう。
特に意識すべきは「腹斜筋群」
腹斜筋群はその役割の重要性に比べて余り認知されていない悲しい筋肉です。
私達人間の身体は「前後左右」の動きには比較的強い構造を持っていますが、「回転」「捻り」という複合的な運動に対しては実は非常に脆い構造をしています。
優れた運動性を実現する為に耐久性が犠牲にされているのです。
その非常に脆い「捻り」の運動を支えてくれる腹筋が腹斜筋なのです。外腹斜筋と内腹斜筋のコンビです。
実は人間の身体には結構な「コンビ筋」が存在しており、いずれも重要な役割を果たしています。
- 腓腹筋とヒラメ筋:第二の心臓を形成する
- 半膜様筋と半腱様筋:股関節を支える
- 大円筋と広背筋:肩関節の自由度を支える
- 小円筋と棘下筋:肩関節の自由度を支える
内腹斜筋と外腹斜筋も他のコンビ筋同様に重要な役割を果たしています。それが「腹圧の支え」と「腹腔の保護」です。
- 腹圧の支えは上半身と下半身への力の伝導を支えます。
- 腹腔の保護は腹部骨格の代わりに腹部の内臓を守る鎧となります。
慢性腰痛の場合に問題になるのは前者の「腹圧の支え」です。腹圧が抜けてしまうと上半身の力を下半身に伝える事ができず、下半身の力を上半身に伝える事ができません。
力の伝導が腹部で遮断されてしまうのです。
その結果腰に負担が集中し、ぎっくり腰や慢性腰痛の引き金を引いてしまうのです。
鍛える前に「使う事」を意識しておこう
腰痛対策となると頭に思い浮かぶのは「腹筋のトレーニング」「背筋のトレーニング」等だと思います。
とにかく「腰痛=筋トレ」だという固定観念があるのです。
これが腰痛対策を億劫にさせる最大の原因であり最大の勘違いでしょう。一部のアスリートを除き、一般の方の慢性腰痛の場合は「鍛える」以前に「筋肉を使っていない」状態にある事が問題なのです。
日常的に使われていない筋肉を鍛えれば壊れます。
それよりも毎日少しでもいいから「使う事」です。使う事を前提に与えられている外腹斜筋と内腹斜筋を毎日・少しでもきちんと使ってあげましょう。
「筋肉を使ってあげる事」
これが慢性腰痛を自宅で治す、自分で治す為の秘訣です。
腹斜筋を鍛える方法
腹斜筋を「使うだけ」の腹筋運動
写真は「腹直筋」を使う腹筋運動なのですが、腹斜筋を鍛える場合はその派生型になります。
- 身体を起こす角度は30度
- 起こした際に右手で左膝にタッチ (身体を捻る運動に)
- 起こした際に左手で右膝にタッチ (身体を捻る運動に)
これだけです。
身体を起こしてから身体を捻るのではなく、起き上がる時に手を膝に伸ばせば軽く身体が捻られます。
非常に負担の軽い運動ですが、最初はその負荷で十分です。
とにかく「埃の被った腹斜筋を使う事」が目的となります。
慣れてきたら負荷を高めましょう
手を伸ばして膝にタッチするのに慣れてきたら今度は写真の様にして見ましょう。
この運動が簡単にできるようになれば慢性腰痛の克服に大前進です。場合によってはこれで終わるケースもあります。
それくらい腹斜筋群は重要であり、慢性腰痛に関りが深い筋肉なのです。
無理はしない、できる範囲でを必ず守る事
腰痛を克服しようとする患者様は「頑張り屋さん」が非常に多いです。その為にこちらの提案を遥かに超えるペースで取り組み、ギックリ腰やヘルニアを招いてしまうケースがあります。
痛んだ身体は確実に治ります。ホメオスタシスの力は半端ではありません。
ただ、電車で言うなら各駅停車です。新快速や新幹線のように途中の駅を飛ばして目的地にはつけません。
変化が出るには1~2週間で十分ですが、身体が元に戻るにはその倍は必要です。
機能が回復してきたからといって「完治した」とは絶対に思わないで下さい。