当院ではABCラジオを常にかけているのですが、その中で健康についての情報が流れてくる事があります。今日はストレッチについてのお話でした。
1つだけどうしても納得がいかない点があった。
パーソナリティが誰かとか、どの番組なのかというのは置いときまして、とにかく一つだけ気になった点がありました。
「20秒以上のストレッチは筋肉を傷めるだけ」
こういう内容です。全部でストレッチのポイントが4つ程紹介されていたのですが、そのうちの1つとして紹介されていました。個人的にはこれは違うと思っています。
最低でも60秒は必要なのがストレッチ
当院でストレッチを掛ける時、最低でも一つの筋肉に対して60秒間のストレッチをかけます。基本は90秒を1セットです。勿論それには理由があります。
- 筋紡錘への働きかけ
- ゴルジ腱器官への働きかけ
当院で行うストレッチには2つの目的がありまして、それを両方達するにはどうしても60秒間が必要なのです。文献名は忘れましたが、これは人間の身体を使って実際に計測した数値だと記載されていました。だから当院では60秒~90秒のストレッチを行っています。
臨床結果も明確に変わる
私は昔、30秒でストレッチができないかと思い試してみました。結果は散々なもので全くストレッチ効果を得る事ができませんでした。そもそも30秒間では患者さんのリラックスにすらならなかったのです。ストレッチはリラックスが必須であり、それには落ち着いた呼吸が数回分は必要になります。そうなると20秒でのストレッチはまず無理でしょう。
ストレッチは目的でやり方が随分と変わる
一昔前に「やってはいけないストレッチ」という書籍がブームになりました。内容は色々あったのですが、その書籍が一番伝えたかったことはズバリこれです。
運動前のウォームアップにストレッチをしてはいけない
運動後にストレッチをしっかりしましょうというものでした。それ自体は決して間違っていないのですが、実はストレッチには色んな種類があって運動前に行っても良いストレッチもあるのです。いわゆるバリスティックストレッチ等がそうですね。ウォームアップにも使える「軽い体操」的なストレッチです。
ストレッチ自体をしっかり説明していないから誤解が生じる
ストレッチ論は筋トレ論と同じくらいに誤解が生まれています。これはストレッチに対する認識不足が原因です。ストレッチもダンスと同じで非常に幅広い領域を持っています。
- リラクゼーションを目的にする
- 筋肉を温めることを目的とする
- 柔軟性を高める事を目的とする
いずれの場合でも対応ができるのが本来のストレッチです。それを「ストレッチ=こういうものだ」という前提で論じていくと、途端に「〇〇してはいけないストレッチ」といった論理が生まれます。それは「狭義の意味でのストレッチ」だと考えましょう。
ストレッチを悪者にしない
結局のところ、ストレッチが活きるか死ぬかは「する側の目的と知識」によって左右されます。
- 何の為にストレッチをするのか?
- 自分は何をしようとしているのか?
ここが明確になっておらず、「何となくストレッチ」をしている人が非常に多く、その現状が「やってはいけないストレッチ」という書籍を作り出したとも言えます。それだけ「やってはいけないストレッチ」をストレッチだと思って取り組んでいる人が多いのです。
話を20秒のストレッチに戻します
ストレッチ論はここで一旦戻して、「20秒以上は筋肉を傷める」理論について考えていきます。正直、私にはその理屈が良くわかりません。ただ、筋肉を傷めるというからには相当な強い負荷を筋肉に掛ける事を前提としたストレッチだと思います。
ですが、ストレッチの単位が「回数」ではなく「秒」なので反復動作を用いるバリスティック系のストレッチではないのかなと思います。ですが、それ以外のストレッチだと筋肉を傷める事の方が至難の業です。
恐らく相当に牽引をするストレッチを前提にしている
この20秒間以上は筋肉を傷めるというストレッチ。恐らくは「相当な牽引力」を対象筋肉に掛ける事を前提にしていると思います。「あいてててて!」と相手が言うくらいの中でのストレッチ。それなら確かに20秒以上すれば筋肉を傷めるかもしれません。ですが、実際に痛めようとすると筋紡錘の伸展反射を超える勢いで牽引力を掛ける必要があるので、余り現実的ではありません。
それはもうストレッチと言うよりただの暴力です。
結論としては、何処かの書籍でそう書いていたのだと思います。それをそのままラジオで伝えられているのかなと。私が千里丘の片隅で「これが本来のストレッチだー!」といくら叫び続けても全く広がらないのですが、こうしてラジオでバーンとパーソナリティさんが伝えると一瞬で伝わるというのは「影響力の偉大さ」「社会的立場の偉大さ」を改めて痛感します。