肩こりのお話し
今回は腰痛と並んで来院症例として多い「肩こり」についてのお話をしていきます。肩こりはよく「四十肩」や「腱板損傷」といった疾患とごちゃまぜにされる事が多いのですが、全く異なる症状となります。
四十肩や腱板損傷には明確な「器質的な問題(靭帯損傷・関節炎など)」が関節に存在していますが、肩こりの場合はそういった「異常」がほぼ見られません。
それもそのはず、肩こりはもっとシンプルで簡単な疾患だからです。シンプルだけど悩む人は多い。それが現代病とされる肩こりの特徴です。
その1:肩こりって何だろう?
肩こりで悩む日本人は非常に多いです。特に事務作業などが多い女性は男性以上に肩こりに悩んでいる人がいます。女性に肩こりが多い理由は詳しい研究はありませんが、臨床からいうと要因と考えられそうなものは結構あrます。「事務作業が多い」「男性に比べて神経質」「肩周辺の筋肉が薄い」「運動習慣が男性に比べると少ない」などが特にそうです。
これは偏頭痛が女性に多い事にもつながってくるのではないかなと思います。
肩こりは基本的に「血流障害」によるもの
肩こりの代表的な症状は「肩が重だるい」というものが圧倒的に多いです。結論から入りますと、この症状を引き起こす原因は「血流障害」です。肩周辺の筋肉に血がしっかりと巡らない為に筋肉に栄養や酸素が届かず、重たくかんじたりだるく感じたりするのが「肩こり」です。それ以外に難しい原因はまずありません。仮にあった場合は「肩こり」ではない別の肩周辺の疾患と診断を受けると思います。
血流障害は主に「緊張」から起こる
肩こりの原因となる「血の巡りの悪さ」はどうして起こるのか。それは「緊張」に他なりません。特に大きな緊張ではなくて「小さな緊張」が肩こりをよく引き起こします。身近にある例としては「スマホ画面に集中する」や「TV・パソコンに集中する」といった行動がまさにそれです。
肩を全く使ってないと思いがちですが「集中して物を見る」という行為は脳に緊張を要求し、無意識的に肩を緊張させています。「小さないかり肩」を作っているようなものです。実際、集中が途切れた時に「ふぅー」と一息入れる事が多いと思いますが、まさに緊張していた証拠です。
このように「自覚の無い、小さな持続する緊張」が現代社会には溢れており、それが肩こりを引き起こしているのです。
首と肩は1セットでこる
最近、肩こりではなく「首こり」という新しい言葉が提唱されるようになっているとか。肩がこる訳ではなく首がこるというものです。これは「スマホ」「携帯」を日常的に使っている世代に増えてきている症状なのですが、本質的には「肩こり」と同じです。首と肩は基本的にセットだと考えてください。
小さな緊張によって肩甲骨が軽く固定されている状態(動きは残っている)だと起こるのは肩こりとなります。一方で肩甲骨が完全に固定されてしまい、動きを失っている状態だと起こるのは「首こり」なのです。
簡単に「肩こり⇒首こり」という順で症状が派生していくと考えておきましょう。ちなみに「首こり⇒偏頭痛」というパターンが一般的です。
その2:肩こりはどうやって起こるのか?
少し内容が繰り返しになりますが、もう一度「肩こりが起こる仕組み」についておさらいをしていきます。基本的に肩こりは「血の巡りが悪い」事によって起こるものであり、更には血の巡りの問題は「緊張」が引き起こすものであると理解してください。
小さな緊張が持続することで起こるのが肩こり
肩こりの直接的な原因である「血の巡りの悪さ」は「緊張」がもたらす結果です。筋肉が緊張してしまうと血を運ぶ「筋ポンプ」が働かなくなってしまい血が滞ります。そうすると身体が求めている酸素や栄養素が届くことなく酸化してしまい、身体には「だるさ」が残ってしまうのです。つまりは「ガス欠」を身体が起こしてしまっているような状態なんですね。
肩こりとは「肩のガス欠」だと考えるとわかりやすいかもしれません。
パソコン仕事は肩が緊張で固定されている
肩こりを引き起こす主な要因は「パソコン仕事」です。最近はここに「スマホ」「携帯」も含まれるようになってきましたが、依然として「パソコン仕事」の肩こりを引き起こすリスクは圧倒的に大きいです。キーボードを打ち続ける姿勢は完全に「肩こりを引き起こす」のにうってつけの姿勢なのです。
入力のしやすいキーボードを使う、デスクの高さを調節するなど、工夫で多少の負担を分散することは可能ですが、キーボード入力の姿勢そのものが肩の血流を著しく邪魔する姿勢なので根本的な解決には至りません。
これが肩こりは職業病と呼ばれる所以です。
現場仕事に肩こりはまず存在しない
現場仕事の男性が悩むのは「腰痛」であり「肩こり」ではありません。それは重たい資材の持ち運びが多く、また現場ではマメな移動も多い為です。使い過ぎによる故障は起こっても「固定や緊張の持続」による血の巡りの悪化は基本的に存在しません。結果的に現場仕事をしている人は「肩こり」とは無縁となっているのです。
その3:肩こりを克服するために必要な事
腰痛と並んで「現代病」の称号を与えられている肩こりですが、その克服は実は簡単です。誰にでもできます。肩こりがここまで蔓延しているのは「身体のケア」という習慣が日本人の中に根付いていないからです。自分で自分の肩を追い詰めてしまっているんですね。
肩甲骨周辺の筋肉を運動させること
肩こりを予防する最も最適で簡単な方法とは「こる筋肉を動かすこと」です。肩こりは筋肉が緊張して血が巡らなくなることで起こります。そこで血が巡っていない筋肉を予め動かしてあげて血を巡らせてあげるのです。「たったそれだけ?」と驚かれますが、たったそれだけで結構な肩こり予防効果が見込めてしまうのです。
肩こりは「血の巡り」に問題があるから起こる症状です。ですので、血の巡りを改善させてあげれば肩こりが起こる理由が失われます。ただそれだけの話なのです。
首を時々運動させること
肩こり同様に首こりを予防するために大切な事。それは「首を運動させること」になります。肩甲骨が固定され始めると途端に肩こりが始まりますが、そのままの状態を放っておくと今度は首が固定され始めて首こりが起こります。
首こりを起こす犯人は「肩甲骨を引き上げる筋肉」です。つまり僧帽筋の上部となります。本来なら肩甲骨ごと肩を引き上げるはずが、肩甲骨が固定を起こしている為に本来なら引き寄せる側の首が肩甲骨へと引き下げられてしまうのです。
首こりは肩こりの延長線上にあるというのはこういう事なんですね。ただ、人によっては肩甲骨が固定を起こす前に不安定な頭を支える首の筋肉が先に緊張してしまう場合もあります。その場合は首こりが先に起こりますが、これは完全に「身体の使い方」の癖になるので予測はとても難しいです。
毎日どこかで「動き」を入れておくこと
結局、肩こりにしても首こりにしても「動きが無い生活」がその根っこには潜んでいます。それは身体のどの部位であったとしても共通している事です。だからこそ予防策・改善策に関しても共通しています。それが「動き」を生活のどこかに入れておくという事です。
動きを入れるとはまさに「筋肉を使う」という事であり、それは「血を巡らせる筋肉ポンプを働かせる」という事でもあります。肩こりや首こりは「筋肉ポンプが働かない」事によって起こる「血の巡りの滞り」が原因となりますのでまさにドンピシャの方法なのです。何よりお金が掛からない。
その4:肩こりって結局何?
以上、肩こりについて色々と紹介をしてきました。非常に簡単な構造をした症状なので「本当にそんな簡単なものなの?」と不思議に思われる方も多いと思います。ですが、本当にそんな簡単な構造をしているのが「肩こり」なのです。
人間の身体は非常に複雑な仕組みをしていますが、その一方で実に単純な仕組みをしている不思議な存在です。私達人間は何故か「複雑な物」として考えてしまいがちですが、多くの場合においては「実は単純」なケースが殆どです。特に生活習慣病と呼ばれる疾患・症状は殆どがそれに当てはまると言えるでしょう。
殆どの場合は「ただの運動不足」に過ぎない
私達現代人を悩ます「肩こり」ですが、その正体は「ただの運動不足」であり「肩甲骨の固定」に過ぎません。現代病と呼ばれるほどに急激に広がっているのは「パソコン」「デスクワーク」がその状態を引き起こすからです。
つまり社会人の多数が日々過ごしているワークスタイルは「肩こり製造スタイル」ともいえるでしょう。いわば肩こりを起こす生活をしているのですから、起こらない方がむしろおかしいのです。
根治には「変化の導入」が不可欠
これだけ肩こりに悩む人が多いのに「なぜ、肩こりは治らないのか?」という疑問が多くの人の頭の中に浮かんでいます。それも実は難しい事ではありません。
現代人を悩ます「肩こり」が依然として猛威を振るっているのは「症状に悩む人が身体をしっかりとケアしていないから」なのです。殆どの人が「肩こりが~」と口にはしているものの腕をグルグル回したりしてその場のだるさをごまかしたりする程度の取り組みしかしていません。
中には肩こり対策に「マラソン」をする人もいるのですが、それは腰痛には効果的でしょうが肩こりにはそこまで劇的な効果をもたらしてはくれません。そんな「ちょっと惜しい」人も多いのです。
肩こりを治したいと思う場合は「肩こりを起こした生活」のままでは無理です。そこに何かしらの変化を加えなくてはいけません。それも「肩関節~肩甲骨」の周辺です。腰や腰下の変化では違う変化が出てしまいます。
人間の身体は非常によくできており、変化に対して変化で返してくれます。だから「変化」を暮らしに溶け込ませてください。たったそれだけで少しずつですが身体は変化をしていきます。
後はその変化のかじ取りを上手にしていけば肩こり知らずの身体が出来上がる訳です。